Webコンサルタント中山陽平の「中小企業を強くするWebマーケティングラジオ」
第577回:中小企業がWebのパートナー選びでトラブルを避ける実務ポイント
今回は、Xのポストでも少し引用したのですが、マーケティングエージェンシーを選ぶ際に押さえておきたいポイントについてお話しします。これはウェブ広告に限らず、サイト制作やコンサルティングなど、皆さんのパートナーとなる会社を選ぶ際にも役立つ内容です。
こういったテーマは、どうしても業界ごとのポジショントークになりがちです。その業界で長く仕事をしていると、自然と特定の切り口で物事を見てしまいますし、商売としてそう発言せざるを得ない側面もあるでしょう。
私もなるべくポジショントークにならないよう心がけていますが、普段から中小企業の「現場主義」を掲げてコンサルティングを行っているため、どうしてもその視点が強くなる点はご容赦ください。
今回この話題を取り上げようと思ったのは、海外の中小企業向けマーケティング会社のCEOが書いた記事を読み、「なるほど、これは皆さんにシェアしたい」と感じたからです。その記事で挙げられていた項目を引用しつつ、私自身の経験や知見を交えて解説していきます。
今回の内容を聞いていただくことで、現在パートナーを探している方は、選定時の質問や検討の材料になるでしょう。また、すでに付き合いのある会社がいる方は、改めて関係性を見直すことで成果が出やすくなったり、今後の付き合い方を考える目安になったりするはずです。皆さんにとってより良い関係性を築くきっかけとして、今回のチェックポイントを活用していただければと思います。
海外の失敗事例から学ぶ、エージェンシー選びの重要性今回ご紹介するのは、『Duct Tape Marketing』という会社のCEO、サラ・ネイ氏が書いた「Questions to ask before hiring a marketing agency」という記事です。
元記事はリンクを載せておきますので、ぜひGoogle翻訳などを使って読んでみてください。より中立的な視点が得られるかと思います。
10 Questions to Ask Before Hiring a Marketing Agency or fCMO
https://ducttapemarketing.com/questions-to-ask-before-hire-a-marketing-agency/
記事では、2つの極端な失敗例が挙げられています。
1. 内容を理解しないまま、高額なSEOサービスを3年契約してしまった
一つは、いわゆる「丸投げ」状態で、月8,000ドル(約120万円)のSEOサービスを3年契約で縛られてしまったケースです。成果については書かれていませんが、失敗例として挙げられている以上、おそらく出ていなかったのでしょう。月額120万円は、コンテンツ制作費を含んでいるかは不明ですが、中小企業から中堅企業にとってかなりの投資額です。
2. 広告アカウントの所有権がなく、トラブルになった
もう一つは、月1万ドル(約150万円)をかけてGoogle広告を運用していたものの、広告アカウントの所有権が自社になかったために、トラブルに発展したケースです。
これらの事例は、導入を分かりやすくするためのものかもしれませんが、金額の大小はあれど、実際に起こりがちな生々しい話でもあります。特にSNS関連では、もっとドロドロした話も耳にします。
今回は誰かを批判することが目的ではありませんので、早速チェックすべきポイントについて見ていきましょう。
契約前に確認すべき7つの重要ポイント 1. 広告アカウントやデータの所有権は自社にあるか?最初に出てくるのが、広告アカウントや解析ツールのアカウント、データの所有権を自社で持てるかという点です。
これは日本のまともな代理店であれば、口酸っぱく言っていることなので、常識になりつつあるとは思います。お客様自身でアカウントを作成してもらうか、代理店が作成して譲渡するなど、お客様がいつでも管理画面を見られるようにするのが一般的です。しかし、地方などでは「管理画面はお見せできません」という代理店がまだ存在するという話も聞きます。
確認すべき質問
- 「契約が終了した際、広告や解析ツールをスムーズに自社で引き継ぎ、管理・運用できますか?」
- 「広告費用やコンバージョン数など、管理画面で確認できるデータを、いつでも私たち自身が見られる状態にしてもらえますか?」
もし代理店から「自社のアカウント内で運用しているので切り離せません」といった説明を受けた場合は、本当に注意してください。
元データにアクセスできず、代理店が作成したレポート経由でしか数字を見られない状況は非常に危険です。まず、そうした古いやり方をしている会社であること自体がリスクですし、パートナーとして対等な関係を築く意識が低い可能性があります。
データは会社の生命線です。お互いがいつでもデータを見て、それに基づき意見交換をしながら改善を進めていくのが本来あるべき姿です。データを見せない、あるいは契約終了後にアカウントを譲渡できない会社とは、基本的に付き合わない方が良いでしょう。
また、「こちらで全部やりますから、皆さんは見なくていいですよ」といったように、クライアントを依存させようとする姿勢の会社も避けるべきです。「見方が分からないなら教えますので、ぜひ見てください」と言ってくれる会社を選びましょう。
2. 「成功の定義」は売上に繋がっているか?次に、「何を成功とみなすか」が明確になっているか、という点です。
ここで注意したいのは、成功の定義がアクセス数、クリック数、SNSのフォロワー数といった、ウェブ上のデジタルな数字だけで完結していないか、という点です。これらはKPI(重要業績評価指標)にはなり得ますが、必ずしも売上に直結するとは限りません。
そうした指標だけを見て、「コンバージョンが増えましたね、良かったですね」で終わってしまう会社は避けましょう。
確認すべきポイント
- 増えたコンバージョンの「中身」まで気にしてくれるか?
- 「問い合わせ内容は悪化していませんか?」「営業に繋がらない問い合わせが増えていませんか?」といった確認をしてくれるか?
- 施策実施後、「その後の成約率はどうでしたか?」「見込み客の熱量はどうでしたか?」といった、最終的な成果まで踏み込んでくれるか?
特に最近は問い合わせフォームへの営業メールなども多く、ツールの設定によってはコンバージョン数が実態と乖離して跳ね上がることがあります。その数字だけを見て何の疑いもなく「成功です」と報告するような代理店は危険です。
クリック数やフォロワー数が業績と明確に連動していると双方で合意できているなら話は別ですが、そうでなければ、最終的な売上まで気にしてくれるパートナーを探しましょう。可能であれば、問い合わせ内容などを共有できる関係を築くのが理想です。
3. 短絡的な施策だけでなく、大局的な戦略はあるか?個別の戦術、例えば「新しいページを作りましょう」「広告の出稿先を増やしましょう」といった単発の提案は出てくるものの、その背景にある大きな戦略が見えない会社は避けた方が良いでしょう。
ウェブマーケティングの競争は激化・飽和しており、短期的に「これをやれば上がる」という魔法のような施策はほとんどありません。「将来的にこういう姿を目指すために、今はこれをやります」という中長期的な視点に基づいた全体像がなければ、施策は場当たり的になり、投資対効果も悪化します。
確認すべき質問
- 提案された施策が「何を目的として」いて、「自社をどのような姿にするために」必要なのか、その意図を尋ねる。
提案された手段(How)だけでなく、その目的(What)や理由(Why)をきちんと説明してくれる会社を選びましょう。
手段だけを提案するのは楽ですし、実行するのも簡単です。しかし、それが成果にどう繋がるかはやり方次第です。
もし定例会などで提案された内容がよく分からなければ、「よく分かりません」と正直に伝えることが大切です。その質問に対して、きちんと相手に合わせて分かりやすく説明できるのが、本当に良いパートナーです。専門家の言うことだからと萎縮せず、臆せずに質問しましょう。そこで相手の本当の実力が見えてきます。
4. 契約終了後のプロセスは明確か?どんな契約にも終わりは来ます。契約が終了した後のことを明確にしてくれる会社を選びましょう。
特に伴走支援型の契約は、終わりが見えなくなりがちです。「もっとやる余地があります」「他社がやっているから、うちもやった方がいい」と言い出せば、課題はいくらでも作り出せます。しかし、だらだらと契約を続けるのが良いわけではありません。
マーケティングは会社の利益の源泉であり、最終的には自社でコントロールできるよう自立を目指すべきです。
良い会社は、いつか自分たちが身を引くことがクライアントのためになると理解しているので、「契約が終わった際は、スムーズに引き継げるようになっています」という体制を整えています。逆に、クライアントを依存させようとする会社は、「うちを辞めるとこれができなくなりますよ」とか、「引き継ぎに時間がかかるので2ヶ月前に言ってください」といった、ソフトウェア契約のダークパターンのようなことを言ってくる場合があります。
契約終了時の条件を事前に聞くこと、そして契約書をしっかりレビューすることが重要です。契約書は、できれば法律の専門家にチェックしてもらうのが一番ですが、最低でも内容をよく確認し、安易に同意しないようにしましょう。
5. 提案者と実際の担当者は同じか?提案や商談の際に、実際に誰が担当してくれるのかが明確になっていない会社は注意が必要です。
これは以前のポッドキャストでもお話ししましたが、「会社で選ぶより担当者で選べ」という視点が重要です。提案の場には、案件を獲得するためにスキルが高い人が出てくるのが一般的です。しかし、実際の運用は別の担当者が行うケースが少なくありません。
会社の中には優秀な人から駆け出しの人まで様々です。優秀な担当者は、当然ながら単価の高い大きな案件にアサインされがちです。
確認すべき質問
* 「この提案をしてくれたあなたが、実際に担当してくれるのですか?」
* もし担当が別の人なら、「では、その担当者にも同席してもらえますか?できれば、その方にプレゼンをしてもらえますか?」とお願いする。
「提案に来てくれた人とは馬が合ったのに、実際の担当者とは合わなかった」「レベル感が違った」ということは本当によくあります。実際に誰が担当するのかを事前に確認し、可能であれば会わせてもらえる会社に相談しましょう。
6. 社内チームと連携する姿勢はあるか?代理店側だけで完結できることは、どんどん少なくなっています。
例えばコンテンツ制作一つとっても、昔は情報を集めて網羅的な記事を書けばある程度成果が出ましたが、今はE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)が重視され、その会社ならではのオリジナリティが求められます。そのためには、社内の担当者や専門家にインタビューしたり、営業やカスタマーサポートのチームと連携したりすることが不可欠です。
良い代理店は、こうした社内連携の重要性を理解しているため、最初から「社内の〇〇部門の方ともお話しさせてください」といった形で、積極的に巻き込もうとする姿勢を見せます。
逆に、「全部うちでやりますから大丈夫ですよ」というスタンスの会社は、今後厳しくなるでしょう。皆さんと一緒になって、社内を巻き込みながらプロジェクトを進めてくれる会社を選びましょう。
7. レポートやAIの活用方針は適切か?その他、元記事で挙げられているものとして、レポートの実例や、AIと人間の役割分担についての確認があります。
レポートについて
毎月20〜30ページにも及ぶ、数字ばかりが並んだレポートを送ってくる会社がありますが、これはあまり良くありません。レポートは、皆さんが最低限の時間で現状を把握するためにあるべきです。読んでみて「ストーリーがない」「結局何を言いたいのか分からない」と感じるレポートは、良いレポートとは言えません。
本来、レポートには「現状の数字からこういうことが言える→だから、次はこのように改善すべきだ→具体的にはこの施策を実行する」というストーリーがあるはずです。定型的なツールから出力しただけのレポートではなく、そうしたストーリーが見えるレポートを提出してくれるか、実例を見せてもらうと良いでしょう。
AIの活用について
「どこでAIを使っていますか?」と聞くことも、今の時代は重要です。広告クリエイティブやコンテンツ作成など、AIは様々な場面で活用されますが、そのリスクや適切な使い方を理解しているかは確認すべきです。私たちもAIを使う際は、リスクヘッジのためにも必ずその旨を伝えるようにしています。誠実な会社であれば、AIの活用方針についてきちんと説明してくれるはずです。
これまでお話ししてきたポイントをまとめます。
アカウントとデータの所有権:データは自社の所有物としていつでも閲覧・移行できるか。 成功の定義:最終的な売上など、自社の事業目標に繋がる形で設定されているか。 戦略の有無:単発の戦術ではなく、大きな戦略に基づいた提案か。 契約終了時の対応:契約をだらだら引き延ばさず、スムーズに終われる体制か。 実際の担当者:事前に担当者が誰か分かり、その人物と話せるか。 社内連携の姿勢:自社の他部署も巻き込んで進める意識があるか。 AIの活用方針:AIを使っていることを明示し、適切に活用しているか。これらの点は、提案書をもとに確認したり、分からないことは「なぜですか?」と質問したりすることで見極めることができます。意地悪ではなく、お互いの認識を合わせるために、納得できるまで確認し続けることが大切です。
最も大切なのは「卒業を応援してくれる」姿勢
もし端的に一つだけ挙げるとすれば、「クライアントの卒業を応援してくれる会社」が良いパートナーだと思います。
そうした会社は、皆さんの会社の成長を第一に考えてくれます。だからこそ、データをきちんと見せてくれますし、契約の終わり際もクリーンです。そして、皆さんが自立できるよう、しっかりと成果を残そうと努力してくれます。
もちろん「卒業」といっても、関係が完全に切れるわけではありません。私たちの場合も、プロジェクトが一段落した後に、定額の相談プランのような形で関係を続けるケースが多くあります。一度築いた関係性の上で、新たな課題が出てきたらまた協力する。そうした「入学と卒業を繰り返す」ような関係が理想的です。
年末に向けて、来期のパートナーを検討し始める時期かと思います。ぜひ今回の内容を参考にしていただければ幸いです。
それでは、今回も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
中小企業、小規模事業者を中心にウェブの活用支援と実行サポートを行っております、株式会社ラウンドナップの代表取締役、中山がお送りいたしました。また次回もよろしくお願いいたします。
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運営・進行株式会社ラウンドナップ(ラウンドナップWebコンサルティング)
代表取締役・コンサルタント 中山陽平
Webサイト:https://roundup-inc.co.jp/
投稿 第577回:中小企業がWebのパートナー選びでトラブルを避ける実務ポイント は 中小企業専門WEBマーケティング支援会社・ラウンドナップWebコンサルティング(Roundup Inc.) に最初に表示されました。





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